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福岡地方裁判所小倉支部 昭和35年(ワ)804号 判決 1963年10月11日

原告(反訴被告) 国信春一

被告(反訴原告) 久礼春夫

主文

別紙目録<省略>記載(三)の家屋部分は原告(反訴被告)の所有に係るものであることを確認する。

原告(反訴被告)が別紙目録記載(二)の家屋を所有するため同目録記載(一)の土地につき地上権を有していることを確認する。

右地上権の存続期間を昭和五七年九月一八日まで、地代を昭和三二年五月二二日から同年一二月三一日までは一ケ月金二二四〇円、昭和三三年一月一日から昭和三五年一二月三一日までは一ケ月金三二〇〇円、昭和三六年一月一日から昭和三八年五月七日までは一ケ月金三八四〇円と各定める。

被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

訴訟費用は本訴及び反訴を通じ被告(反訴原告)の負担とする。

事実

(一)  当事者の申立

(1)  原告(反訴被告、以下単に原告という)

(A)  本訴関係

「別紙目録記載(三)の家屋部分(以下本件家屋部分という)は原告の所有に係るものであることを確認する。原告が別紙目録記載(二)の家屋所有のため同目録記載(一)の土地につき地上権を有していることを確認する。右地上権の存続期間を昭和五七年九月一八日まで、地代を昭和三二年五月二二日以降一ケ月金九三二円と各定める。本訴々訟費用は被告(反訴原告、以下単に被告という)の負担とする」との判決を求める。

(B)  反訴関係

「被告の反訴請求を棄却する。反訴々訟費用は被告の負担とする」との判決を求める。

(2)  被告

(A)  本訴関係

「原告の本訴請求を棄却する。本訴々訟費用は原告の負担とする」との判決を求める。

(B)  反訴関係

「別紙目録記載(四)及び(五)の家屋(それは同目録記載(三)の本件家屋部分と同一である)は被告の所有に係るものであることを確認する。原告が別紙目録記載(二)の家屋所有のため有する地上権の範囲は、同目録記載(一)の土地の内、同目録記載(四)及び(五)の家屋の敷地一一坪七合を除いたその余の土地五二坪三合であることを確認する。右地上権の存続期間を昭和四七年九月一八日まで、地代を昭和三二年五月二二日以降一ケ月一坪当り金二〇〇円と各定める。反訴々訟費用は原告の負担とする」との判決を求める。

(二)  当事者の主張

(1)  原告の本訴請求原因事実

(イ)  別紙目録記載(一)の土地(以下本件土地という)、及び同目録記載(二)の家屋(以下本件家屋という)は、いずれも曾つて被告において所有していたものであるが(なお本件土地は現在においても被告の所有である)、被告は昭和二四年七月二八日小倉市信用金庫に対し、本件家屋につき抵当権の設定をした。そしでその後、右信用金庫は右抵当権に基づき、本件家屋につき競売の申立をしたのであつて、福岡地方裁判所小倉支部昭和二五年(ケ)第一一六号不動産競売事件として、手続が進められた結果、昭和二七年七月三一日酒井皎に対し競落許可決定がなされ、同年九月一九日同人のため所有権移転登記が経由された。そうすると、右酒井は本件家屋の所有権を取得すると同時に、該家屋所有のため、その敷地につき法定地上権を有するに至つたわけである。ところで、その後右酒井は、宇部曹達工業株式会社に、同社は更に昭和三二年五月二二日原告に、それぞれ本件家屋の所有権と、右法定地上権とを譲渡したのであり、その内、本件家屋については、昭和三二年五月二二日原告のため所有権移転登記が経由せられたが、地上権については、当初から現在まで、何らその設定登記がなされず、又その存続期間及び地代等に関する約定も、格別なされることなく、現在に至つている状態である。

(ロ)  なお本件家屋は、公簿面では建坪二八坪八合外二階一四坪八合となつているが、実際は建坪四五坪六合外二階三〇坪五合五勺あり、本件家屋部分は、本件家屋の一部である。その点は、構造上からしても、本件家屋部分は、その余の家屋部分(以下本件母屋部分という)と壁一重で接着しており、又経済上からしても、本件家屋部分には、便所、炊事場等の設備がなく、独立して使用できないのみならず、本件母屋部分にある炊事場から表道路に出るためには、本件家屋部分を通過しなければならないという関係もあつて、本件家屋部分の独立性のないことは、明らかなのであり、本件家屋部分は、本件母屋部分と不可分一体をなすものとして、本件家屋の一部であるといわなければならない。従つて、従来、競売手続面においても、また売買面においても、本件家屋部分は本件家屋の一部として、終始取扱われてきたわけなのである。

ところで、若し仮に、本件家屋部分が本件母屋部分と不可分一体をなすものではなく、本件家屋の一部でないとしても、本件家屋部分は、それ自体独立性がなく、本件母屋部分に従属しているのであるから、少なくとも、本件母屋部分に附合しているものといわなければならない。

従つて、いずれにせよ、本件家屋部分が現に原告の所有に属していることだけは、間違いのないところである。

(ハ)  ところが、被告は昭和三五年一〇月一四日に至り、本件家屋部分は独立した一個の建物であつて、競売の対象にならなかつたものであるから、現在もなお依然として、被告の所有物件であると主張し、原告に対し、本件家屋部分の占有使用を禁ずるとともに、その三ケ所の出入口を封鎖して了つたのである。

(ニ)  そこで、原告としては、やむを得ず、被告を相手方とした上、本件家屋部分が原告の所有に係るものであることの確認を求めるとともに、原告が本件家屋所有のため、本件土地につき地上権を有していることの確認を求め、且つ右地上権の存続期間を前記酒井が本件家屋につき所有権移転登記を経由した昭和二七年九月一九日から三〇年後の昭和五七年九月一八日まで、地代を原告が本件家屋につき所有権移転登記を経由した昭和三二年五月二二日以降本件土地の統制賃料額である一ケ月金九三二円と各定めて貰うべく、本訴請求に及んだ次第である。

(2)  右に対する被告の答弁、及び被告の反訴請求原因事実

(イ)  原告主張の右事実は、その内、(イ)及び(ハ)の事実だけはこれを認めるが、その余の事実は争う。

(ロ)  元来、本件土地及びその地上建物は、いずれも曾つて被告の所有物件であつたところ、被告は、さきにその地上建物の内、本件母屋部分についてのみ、小倉市信用金庫に抵当権を設定したが、その後、原告主張の経過により、競落、売買等がなされたわけである。従つて、原告において所有権を取得したのは、本件母屋部分だけであつて、それとは別個独立の建物である本件家屋部分は、終始一貫、被告の所有物件であり、上記酒井、宇部曹達工業株式会社、及び原告らが、その所有権を取得したことは、絶えてないのである。それ故に、被告は昭和二七年一〇月三一日、本件家屋部分の一部である別紙目録記載(四)の家屋につき、被告の名義を以て、所有権保存登記を経由したが、本件家屋部分のその余の部分である別紙目録記載(五)の家屋は、昭和一七年頃増築したものであり、現在までのところ、未だその登記がなされていないのである。ところで、右両家屋が、合して本件家屋部分となつているのであるが、門司市においても、従前から、本件家屋部分は被告の所有に係るものと認め、被告に対し課税し来つているのみならず、被告においては、昭和三五年六月中旬まで、本件家屋部分に第三者を居住させていたこともあつて、本件家屋部分と本件母屋部分とは、大小の差こそあれ、事実上及び公簿上、別個独立の建物であること、明らかである。

そうすると、本件家屋部分は、被告の所有物件であつて、原告の所有物件ではないから、原告の本訴請求中、本件家屋部分が原告の所有に係るものであることの確認を求める部分は、失当であり、また原告が所有するのは、本件母屋部分だけなのであるから、原告の該部分所有のための地上権の範囲も、本件土地の内、本件家屋部分の敷地一一坪七合を除いたその余の五二坪三合の土地に限定されるべきものであり、また右地上権の存統期間も、本件母屋部分が建築後既に四一年を経過し、相当老朽化している関係もあつて、上記酒井が該部分につき所有権移転登記を経由した昭和二七年九月一九日から二〇年後である昭和四七年九月一八日までとするのが相当であり、その地代も、本件母屋部分の敷地が、延べ面積三〇坪を超える建物の敷地として、地代家賃統制令の適用をうけない関係上、原告が本件母屋部分につき所有権移転登記を経由した昭和三二年五月二二日以降一ケ月一坪当り金二〇〇円とするのが相当であるから、それらの点に関する原告の請求乃至主張は、いずれも失当であるといわなければならない。

(ハ)  よつて、被告としては、以上により、原告の本訴請求の正当性を争い、その棄却を求めるものであるが、更に積極的に、原告を相手方として、反訴を提起し、別紙目録記載(四)及び(五)の家屋(即ち本件家屋部分に該当する)が被告の所有に係るものであることの確認を求めるとともに、原告が本件母屋部分所有のため有する地上権の範囲は、本件土地の内、右(四)及び(五)の家屋の敷地一一坪七合を除いたその余の五二坪三合の土地であることの確認を求め、且つ右地上権の存続期間を昭和四七年九月一八日まで、地代を昭和三二年五月二二日以降一ケ月一坪当り金二〇〇円とそれぞれ定めて貰うべく、請求するものである。

(3)  被告の右(ロ)の反訴請求原因事実に対する原告の答弁

(イ)  被告主張の右(ロ)の反訴請求原因事実の内、別紙目録記載(四)の家屋が登記簿上存在していることは、これを認める。しかしながら、右登記は、被告の債権者である元永辰夫が、門司市役所備付の課税台帳補助簿(所謂名寄帳)の登載に基づき、本件家屋以外に、更に右(四)の家屋が別個に存在するものと信じ、それにつき強制競売の申立をしようと考えた結果、それが右帳簿上被告先代久礼久吉所有名義のまま放置されていたのを、債権者代位権に基づき、昭和二七年一〇月三一日被告名義に所有権保存登記をしたため、登記簿上出現するに至つたわけであり、何も被告自らが、その登記をしたというわけではないのである。被告としては、寧ろ、そのようなことは考えていなかつたのであり、そのことは、本件家屋については昭和二四年六月二日相続登記をしておきながら、右(四)の家屋については全く放置して、省みていない点に徴しても、明らかである。ところで、右元永は、その後右(四)の家屋につき強制競売の申立をしたが、その競売手続進行中、賃借権の有無の調査に際し、該建物は帳簿上登載されているだけであつて、何ら実在しないものであることが判明したため、昭和二八年一月一一日その強制競売の申立を取下げて了つたのである。ところが、その後被告において、右代位保存登記の存在を覚知するや、当該家屋が本件家屋部分に該当するかのように主張し初め、門司市に対しても、そのように申告した結果、その後新たに、該家屋につき、被告に対し課税されるようになつたわけである。以上のように、右(四)の家屋は実在しないものであつて、本件家屋部分は、本件家屋の一部であるか、又は少なくとも本件母屋部分に附合したものであるから、いずれにしても、原告の所有に係るものであること、原告がさきに本訴請求原因事実として、述べたとおりである。また、その余の反訴請求原因事実は、原告の主張に反する限度において、すべて争うものである。

(ロ)  よつて、被告の反訴請求は、失当であり、到底棄却を免れないものといわなければならない。

(三)  当事者の立証<省略>

理由

(一)  先ず、原告の本訴請求につき、その当否を考えてみよう。

(1)  原告主張の本訴請求原因事実の内、(イ)及び(ハ)の事実については、当事者間に争がない。

(2)  ところで、本件における最も重要な争点は、本件家屋部分が本件家屋の一部として、原告の所有に係るものであるか、或いは本件家屋とは別個独立の建物として、被告の所有に係るものであるかという点であるから、次にその点について考えてみよう。先ず、別紙目録記載(四)の家屋が登記簿上存在していることは、当事者間に争がない。そして、上記の各争のない事実に、成立について争のない甲第一及び第二号証、乙第二及び第三号証、第五号証、証人藤田一雄、同酒井皎、同身深正男の各証言、証人吉田芳夫の証言の一部、被告本人尋問の結果の一部、検証の結果、及び本件弁論の全趣旨を綜合すると、次の事実を認めることができる。即ち、

(イ)  本件母屋部分は、従前から現状のままであつて、格別の変動を生じたことがないのであるが、本件家屋部分は、過去において、その態様にかなりの変動があつたのであり、曽つては、本件家屋部分所在地上に、本件母屋部分とは別個独立の別紙目録記載(四)の家屋が存在していたところ、昭和二二年頃被告が右(四)の家屋につき、別紙目録記載(五)の家屋を増築した際、右(四)及び(五)の家屋を本件母屋部分に接着させ、以て現在の状態を作出したものであること

(ロ)  ところで、右(四)及び(五)の家屋が、本件家屋部分を構成しているのであり、それらは、いずれも現在公簿上において、独立した家屋として表示されているけれども、前記接着後における状況としては、本件家屋部分と本件母屋部分とが接する壁は、双方共通の一重の壁であり、また、その間に出入口が設けられて、双方の交通が自由になされ得るようになつており、しかも、本件家屋部分には、便所、炊事場等の設備がないという状態であつて、そのため、本件家屋部分は、それよりも遥かに大きく、住宅として完全に自足し得る本件母屋部分の従たる附合物になり了つたのであり、その結果、本件母屋部分と本件家屋部分とは、相合して、社会経済的見地上、一戸の家屋と見得るものになつたものであること

(ハ)  その後昭和二四年になつて、被告は小倉市信用組合(その後小倉市信用金庫と改称)に対し、本件母屋部分と本件家屋部分とが合した右家屋全部につき、抵当権の設定をしたところ、その後、該抵当権が実行せられて、酒井皎が競落し、その後、宇部曹達工業株式会社を経て、原告がその所有権を取得するに至つたものであること

をそれぞれ認めることができる。この認定に反する証人松吉駒男の証言の一部、及び被告本人尋問の結果の一部は、いずれもたやすく信用することができないし、他にこの認定を覆すに足る資料はない。

そうすると、本件家屋部分は、現在原告において所有しているものといわなければならない(なお、この点については、本件家屋部分を構成する別紙目録記載(四)及び(五)の家屋が、それぞれ現に公簿上、被告の所有物件として登載されていても、或いは被告が従前から、それらの家屋につき、課税せられ、納税していたとしても、そのようなことによつては、格別影響をうけないこと勿論である)。従つて、原告の本訴請求中、本件家屋部分が原告の所有に係るものであることの確認を求める部分は、正当であるから、これを認容するものである。

(3)  そこで次に、原告において有する地上権の範囲、存続期間、地代等の点について考えてみるに、先ず、地上権の範囲は、本件母屋部分及び本件家屋部分とも原告の所有に係るものである以上、本件土地の全部にわたるものであることは、明らかであり、また存続期間は、「二〇年以上五〇年以下の範囲内において、工作物又は竹木の種類及び状況その他地上権設定の当時の事情を斟酌して、裁判所これを定むべき」旨規定する民法第二六八条第二項に則り、本件における上記諸般の事情に照らして考えるときは、原告主張のとおり、本件家屋の競落人酒井皎が本件家屋につき所有権移転登記を経由した昭和二七年九月一九日から三〇年後である昭和五七年九月一八日までとするのが相当であり、また地代は、本件土地が地代家統賃制令第二三条第二項第三号により、同令の適用除外物件である関係上、鑑定人木村直人の鑑定の結果を採用し、原告が本件家屋につき所有権移転登記を経由した昭和三二年五月二二日から同年一二月三一日までは一ケ月金二二四〇円、昭和三三年一月一日から昭和三五年一二月三一日までは一ケ月金三二〇〇円、昭和三六年一月一日から本件口頭弁論終結日である昭和三八年五月七日までは一ケ月金三八四〇円とするのが相当であると考える。従つて、原告の本訴請求中、原告が本件土地につき地上権を有していることの確認を求める部分は、正当であるから、これを認容し、また、その請求に基づき、右地上権の存続期間、及び地代を、それぞれ右のように定めることとする(なお、地代の点については、右に定めた額は、原告主張の額よりも多いのであるけれども、民法第三八八条但書に基づく請求においては、当事者主張の額よりも高額に定めることは、法律上何ら差支ないことであり、その場合でも、請求の一部棄却という観念は、容れる余地がないこと、同法第二六八条第二項の請求に基づく地上権の存続期間の決定において、当事者主張の期間よりも短い期間を決定する場合と同様であると解されるのであり、また原告は、昭和三二年五月二二日以降の地代の確定を求め、その終期を明らかにしていないけれども、その趣旨とするところは、右同日から本件口頭弁論終結日までの地代の確定を求めるということであると解せられるのである。そして、一旦定まつた地代は、その後特別なことがない限り、将来もそのまま、その額で継続してゆく性質のものであるから、右のように解したとしても、格別の不都合はないわけである)。

(4)  よつて、原告の本訴請求は、いずれも正当として、これを認容するものである。

(二)  次に、被告の反訴請求について、考えてみるに、上来の認定説示により、原告の本訴請求がすべて正当である以上、それと事毎に相容れないことを求める被告の反訴請求が、いずれも失当であることは、勿論である。よつて、被告の反訴請求は、これを棄却するものである。

(三)  以上により、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用した上、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂上弘)

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